先日の『茜色の約束 〜サンバ Do 金魚〜』の塩崎祥平監督へのインタビューに続いて、本日は『孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜』(監督:津村公博、中村真夕)の中村真夕監督へのインタビューを紹介します。我々の準備した質問に、真摯に答えていただきました。
『孤独なツバメたち ~デカセギの子どもに生まれて~』 予告編:

Q1 作品を撮ろうと思ったきかっけは何ですか?
──2008年の日伯交流100周年の年に、浜松にテレビの取材で行ったのがきっかけで、浜松学院大学の津村公博教授と出会い、先生が行っている夜の調査に同行したのがきっかけです。津村先生は何年も土曜日の夜に浜松の夜の街を歩いて、日系ブラジル人のデカセギの子どもたちに声をかけ、彼らの生活実態を調査するためにインタビューを行っていました。


Q2 撮影には2年間がかけられたそうですが、その間に主人公たちと接して感じたことは何ですか?
──最初に彼らと出会って衝撃を受けたのが、彼らがすごく頭もよく、日本語の読み書きもできるのに、ほとんどが中卒で親と同じように工場で働いていることでした。中には中学校を中退して働いている子もいて、外国籍であるがために義務教育が保障されていないという状況に驚きました。
そんな状況にも関わらず、いつもつねに前向きで、夢を持ち続ける彼らの姿にとても惹かれました。しかし撮影を始めてわずか一ヶ月ほどでリーマンショックが起こり、多くの青年達そしてその家族が仕事を失い、ブラジルに帰国することになってしまいました。中には日本生まれ育ちで、ブラジルを知らない子もいました。 一年半後、ブラジルまで行って、その後の彼らの生活を追ったのですが、ブラジルに馴染めずにいる子、新しい土地で働きながら、学校に行き、夢を追いかける子、それぞれの成長を見ることができました。

Q3 作品では、どちらかというと日本社会の枠から外れてしまった青年=”孤独なツバメたち”を扱っていますが、そういった青年たちをフォーカスしたのにはどんな意図があったのですか?
──意図的に日本社会から外れた青年達をフォーカスしたのではなくて、私たちが浜松の街で出会った青年達のほとんどが中卒で工場で働いている青年達でした。中には大学まで進学した子もいましたが、それはごく一握りの人たちで、多くの青年達は、デカセギに来た家族を助けるために自ら進んで働いている子たちがほとんどでした。そういう意味では、浜松にいるごく普通の日系ブラジル人の青年達を追った作品だと思います。
Q4 そういった青年を取り上げることで、在日のブラジル人からは、この作品を観た日本人に在日ブラジル人に対するマイナスのイメージを強く印象付けてしまうことにならないかという懸念の声もありますが、その点についてはどうお考えですか?
──そういった声を日系ブラジル人コミュニティのリーダーもしくはエリートのような方々から聞いたことはあります。しかし先ほど申し上げたように、私たちはエリートではなく、ごく平均的な浜松の日系ブラジル人の青年たちを取り上げたつもりです。もちろん彼らと同じような境遇にありながらも、がんばって勉強して大学まで進学した青年達もいるのは知っています。しかし「成功者」になって、日本の社会に適応できた青年達はテレビのニュースや、新聞で取り上げられることはあっても、中卒で工場で働く青年達には光をあてられることはありません。中には過ちを起こしてしまった青年もいましたが、彼らの多くは与えられた環境の中で懸命に生きています。私にとっては彼らは「不良」でも、「失敗者」でもなく、普通の幸せを見つけるために懸命に生きているごく普通の若者たちです。コミュニティの「成功者」だけを見せたいという気持ちは分らなくはありませんが、工場労働者であっても、夢や希望を捨てない若者たちをあたたかく支援してもらいたいと思います。

Q5 この作品を通して伝えたいことはありますか?
──日本人として私は、彼らから多くのことを学びました。どんなつらい状況に置かれても、希望を持ち続け、マイナスをプラスに転じようとする彼らの考え方には、とても力づけられました。一人でも多くの同世代の日本人の若者に、この映画を見ていただいて、日系ブラジル人の青年たちの強さ、逞しさから学んで欲しいです。
Q6 津村監督が教鞭をとる浜松学院大学には、ブラジル人の学生もいるそうですが、彼らについて教えて下さい。
──津村先生からお聞きになった方がいいかもしれませんが、浜松学院大学のブラジル人の生徒さんたちは、この映画に共感して、字幕翻訳や宣伝活動にも協力してくれています。また大学生ではありませんが、この映画の登場人物たちと同じような境遇にある日系ブラジル人の青年達を中心に「マイノリティ・ユース・ジャパン」という団体を結成し、この映画の宣伝活動を行い、当事者の声を伝えようとしています。

Q7 映画製作者としての、今後の予定を教えて下さい。
──この映画にも登場するユリという青年が、ブラジルで妻子を得た後、現在、単身でデカセギに日本に来ています。彼の物語を中心にドキュメンタリーの第二弾も検討中です。また6年前から企画している劇映画も進めています。
『孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜』
特別招待作品(各会場で一度の上映)
東京会場:10月8日(月・祝) 14:00〜
大阪会場:10月14日(日)14:35〜
京都会場:10月21日(日)15:45〜
浜松会場:10月28日(日)12:55〜

中村真夕監督